Jアラートが鳴ったあとの数分で生死が決まる
2017.09.15 ニュース
「自衛隊ができない20のこと 12」
9月15日、北朝鮮によるミサイル発射が行われました。軍事的脅威がますます大きくなっています。9月3日の核実験は、CTBTの分析で「水爆であった可能性が否定できない」とされました。広島型は15キロトン、長崎型が21キロトンの破壊力でしたが、それをはるかに超えた70キロトンの威力を持つものだったと言われています。広島・長崎の原爆をはるかにしのぐ核兵器の実験が行われたということです。
北朝鮮はすでに核弾頭の小型化を終え、ICBMの発射実験も多数行い、その精度を上げています。しかも、今回の核実験は水爆の実験だったと主張しています。私たちもいよいよイザというときの準備をしなければならないようです。
我が国は、海上自衛隊によるSM-3という成層圏での迎撃システムと、最終フェーズを撃ち落とす航空自衛隊のPAC-3という弾道ミサイル迎撃システムを持っています。しかし、どちらも機械ですから、能力限界があります。各々の迎撃システムを中心とするドーム状の限られた射程範囲があり、当然ですが射程範囲外のミサイルを撃ち落とすことはできません。また、上昇中のものや水平に飛んでいるものは撃ち落とせません。あくまでも下降中のフェーズを撃ち落とすシステムです。日本は2重の弾道ミサイル迎撃手段を持っていますが、3重のSM-3、THAAD、PAC-3というミサイル迎撃態勢を持つ米国でも弾道ミサイル避難訓練をしているのです。備えあれば憂いなし、どんなに警戒しても「ゼロリスク」は幻想です。
自衛隊は私たちを守るため昼夜ミサイルに目を光らせ、その動きに合わせた対応をしています。また、ミサイルの加速の様子をとらえ、現代の空襲警報である緊急警報システム(Jアラート)発令のための情報を伝えるのも重要な任務です。
自衛隊は、台風や地震などの災害時には救難や災害復興等で私達のそばにいて助けてくれますが、軍事攻撃があった場合には正面から対処しなくてはならないために、私達の身近からいなくなることも考えられます。自衛隊はたとえ有事には救助に来られないとしても、私たちが生きるために必要な警報の元になる情報を伝えたり、ミサイルを迎撃したりしてくれているのです。貴重な情報を生かし、ミサイル攻撃が現実になった時に備えて、私達一人ひとりがそれぞれに生き延びる対策をしておきましょう。
私達は地震や台風、竜巻などの自然災害が突然襲い掛かってきた時にどうするべきかを考えることには慣れています。それと同じように、弾道ミサイル攻撃にどう対処するのかについても事前に考えておかないといけません。いざ危機に直面すると身近な所に原因があるのではないかと考えがちですが、これは日本の政治のせいでありません。近隣諸国の軍事情勢の変化によるものです。日本が望むと望まざるとに関わらず、周りの国が軍事大国になり、ミサイルや核攻撃をしかけてくる時代になってしまったのです。その過酷な現実を受け止めないといけないのです。
自然災害についての防災グッズや避難場所の確認はできても、弾道ミサイル攻撃からの避難は荒唐無稽な話と捉えがちです。実際、8月29日に現代の空襲警報とも言うべきJアラートが鳴りました。アンケートによると多くの人はJアラートが鳴っても、弾道ミサイル着弾までのたった数分の間に何をしてよいかがわからなかったために、結局は何もしなかったと答えています。
北朝鮮から発射された弾道ミサイルは、15分もあれば確実に日本に着弾します。わずかな時間の中でやるべきことは、事前に準備しておかないとすぐには実行できません。弾道ミサイルが我が国の領土に着弾する可能性があると判断された場合にJアラートは、鳴ります。ミサイルは加速を続け領土を飛び越えて遠くの海に着水するかもしれないし、あるいは迎撃が失敗し、本当にあなたのすぐ近くに着弾するかもしれません。Jアラートが与えてくれるのはたった数分間の猶予ですが、この数分間の動きが生死を分けることになるのです。
⇒【資料】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1394328
Jアラートはミサイル発射後、軌道が我が国の領土に到達する可能性が出てきた段階でその地域に鳴ります。その段階ではまだ加速途中ですし、さらに加速が続くかもしれません。我が国の領土上空を飛ぶことが確定しても、加速して飛び越える可能性もあるわけです。しかし、Jアラートが鳴れば上空をミサイルが飛ぶわけですから、ブースターの破片による落下事故に遭う可能性もあるのです。
ミサイルに搭載されているのが通常弾頭であれ核弾頭であれ、ともかく数分以内に頑丈な建物か地下に逃げる方が、衝撃波や熱線の影響を直接受けるのを避けられます。身近にある頑丈な建物に飛び込むのにどれくらい時間がかかるのか知っておくと便利です。建物の中では窓やドアから離れ、姿勢を低くして衝撃に備えましょう。ドアや窓は爆風で簡単に吹っ飛びますし、窓のそばにいる人は熱で炭化することがあります。広島・長崎の原爆でも、遮蔽物の陰にいた人と路上にいた人ではその被害に大きな差があったと聞きます。遮蔽物の陰に身を伏せましょう。爆発が起こった方向に目を向けたくなるのはわかりますが、火球を直接見ると失明するので目を覆いそちらを見ないようにします。そういった対処方法の情報を集め、家族との連絡方法や待ち合わせ場所を決め、持ち出すものをあらかじめ準備しておけば、同じ数分でもさっと動くことができるはずです。
突然のJアラートに「数分では何もできない! ただうるさいだけだ!」と批判があるそうですが、数分もあれば頑丈な建物に飛び込め、生き残る可能性が上がるのです。爆心地の直下はともかく、数キロ離れた場所では頑丈な建物の陰にいるかいないかで生死を分けることもあるのです。終戦直前の広島の原爆投下直前に空襲警報が解除になっていました。もしもあの時、空襲警報が解除されていなければという話が多く残っています。
自衛隊が伝えてくれるたった貴重なたった数分間をどう使うか。あの時、広島・長崎の人たちにその数分があったらと考えれば、今、私達は弾道ミサイルからの避難を恥ずかしがらずにできるはずだと信じています。
【小笠原理恵】
国防鬼女ジャーナリスト。「自衛官守る会」顧問。関西外語大学卒業後、報道機関などでライターとして活動。キラキラ星のブログ(【月夜のぴよこ】)を主宰