「ブラック企業の風評影響」ワタミ初の赤字で渡辺氏陳謝
居酒屋チェーン大手のワタミの株主総会が29日開かれ、上場以来初の最終赤字に転落した平成26年3月期の業績について創業者の渡辺美樹氏が陳謝、「『ブラック企業』との風評が広まり、居酒屋の客足だけでなく介護や食事宅配サービスの売り上げにも影響した」と述べた。
渡辺氏は総会後の「創業30年記念講演」に登壇し、居酒屋事業の不振の原因は「お酒を習慣的に飲む人の減少や、『チェーン店の安心感』が強みにならなくなったため」と分析。
その上で、“ブラック批判”のきっかけとなった6年前の新入社員の自殺について「事業規模が大きくなり、従業員一人一人に目が届きにくくなっていた。その後、週休2日のルールを明文化した」「私が一生背負う十字架だ」と反省の弁を述べた。
総会でも、社員向けの理念集にあった「365日24時間死ぬまで働け」という表現について株主から質問が上がり、経営陣が「休みの日でもお客さまへの思いを忘れないように、という意味だったが、批判を受け改訂した」と釈明した。
今後の業績回復策については、大規模チェーン店から、より専門色の強い店舗への転換を進める方針を桑原豊社長が説明。今期は最終損益を69億円改善し、20億円の黒字を目指す。
ワタミは例年、株主総会を両国国技館で開いていたが、平成8年の上場以来初の赤字にかんがみ、今年は東京・品川の会議場で開催。90分余りで終了した。出席した株主は2188人と、昨年の3分の2だった。
ワタミの26歳女性社員、入社2カ月で過労自殺…手帳に「誰か助けて」
【過労死の国 日本】労組の存在意義(3)
「体が痛いです。体が辛いです。気持ちが沈みます。早く動けません。どうか助けて下さい。誰か助けて下さい」
居酒屋チェーン大手「ワタミフードサービス」の新入社員で、平成20年6月に過労自殺した森美菜=当時(26)=がのこした手帳の文面だ。日付は5月15日。美菜は入社後1カ月半でこれを書き、1カ月もたたずに亡くなった。
調理研修がほとんど行われないまま神奈川県横須賀市の店舗に配属され、刺し身などを作る最もハードな「刺場」を任された。開店前の午後3時までに出勤し、平日は午前3時、週末は午前5時の閉店後も働いた。しかも与えられた社宅が店から遠く、始発電車まで待機を余儀なくされた。
ボランティア研修や早朝研修が組み込まれ、休日に心身を休める暇もなかった。調理マニュアルに加えて経営理念集も暗記せねばならず、リポートの提出まで課せられていたという。
手帳に「SOS」を記すころまでの残業は月140時間。そして手を差し伸べる「誰か」は、会社の中にいなかった。父、豪(つよし)(64)は、ワタミが抱える欠点を指摘してこう悔やむ。
「労働組合があれば、娘は救われたはずだ」
◆研修なし、勤務14時間超、経営理念集…「労使一体で改善」
厚生労働省の24年の統計では、従業員千人以上の大企業で労組に加入している労働者は45・8%。千人未満の企業になると5・5%と極端に低いが、ワタミはグループ従業員数6157人でありながら、労組が存在しない。
労働者が労組を結成する権利は、憲法で保障されている。が、美菜と同期入社の女性は、豪に宛てた手紙の中で、入社時に会社から「労組を作ってはならない」という趣旨の説明を受けたことを明かした。なぜかという質問に、担当者は「不満があれば、すぐ上に伝えるから」と答えたともいうのだ。
神奈川労災保険審査官はこの手紙を証拠として採用し、昨年2月に美菜の過労自殺を労災認定している。
ワタミグループの広報担当者は、取材に「そのような説明をした事実は確認できない」と回答し、労組がない理由をこう述べた。
「弊社では労働条件の維持・改善は、労使一体となって検討し決定する方針、風土であり、結果として円滑に実施できている。今後もこの考え方を踏襲する」
美菜の上司に当たる店長は、年下の女性社員だった。社内制度で決められた「カウンセリング」を週1回行い、休日に体力の回復や気分転換ができないと美菜から打ち明けられていたが、労働基準監督署の聴取には「どうして自殺したのか分からない」と答えた。
美菜のパソコンには死の直前、会社に提出したリポートが保存されている。
「120%の力で、どんなにひどい状況でも無理やりにでも乗り越えろと?」「日々の業務が終わると、皆へとへとである。それとも、へとへとになっているのは、私だけか?」-。疑念を直接、ぶつけていた。
入社前、過労死の心配を口にした母親に、美菜は「大丈夫。変だと思ったら、すぐ辞めるから」と応じたのだという。
労使一体を強調することで、会社は美菜から冷静な判断力を奪ったのではないか。労組が存在すれば、会社との協定によって残業に歯止めがかかっていたのではないか-。豪はそう考えずにはいられない。
「だれもが追い立てられ、互いを気にかける余裕さえなく、職場が分断されていた。労組は、やはり必要だ」
豪の悲痛な思いを受け止められる労組は、果たして存在するのか。ある労組で書記長を務めていた若者が自らの試行錯誤を語った。(敬称略)
サービス残業の末、過労死…社員の妻から訴えられた「すかいらーく労組」
【過労死の国 日本】労組の存在意義(1)
本来であれば、組合員である労働者の命と健康を守るべき労働組合。今の労働組合が、「karoshi」にどうかかわっているのかを探る。
◇
「相談なんてとんでもない。会社に筒抜けになる」。社内の労働組合を活用できないか、と電話越しに問われた男性はこう即答した。そして翌朝、出勤前に倒れたという。
◆外部に相談も…
外食チェーン大手「すかいらーく」の社員だった中島富雄=当時(48)、横浜市都筑区=は平成16年8月、脳梗塞で死亡した。神奈川、静岡両県の複数店舗で店長の不在時などに応援に駆け回る「支援店長」。月平均130時間にも及ぶサービス残業が2年も続いた末の過労死だった。
「言うことを聞けないなら辞めろ」。上司から暴言も吐かれていた中島は、退職覚悟で会社に未払い残業代を請求する決意を固めていた。
中島は企業内労組「すかいらーく労働組合」の組合員で、組合費月4500円は給与から天引きされていた。にもかかわらず、頼ったのは、個人加盟できる「全国一般労働組合全国協議会東京東部労働組合」(東部労組)。東部労組が実質的に運営する相談窓口に中島がかけた最初で最後の電話が、冒頭のやりとりだったのだ。
昇給と雇用優先
独立行政法人「労働政策研究・研修機構」が19年、労働者10万人に行った調査では、職場の苦情や不満を労組が予防・解決することに「期待できない」という回答が47・5%を占め、「期待できる」(31・0%)を上回った。
理由としては「会社と同じ対応しかできない」(36・8%)、「会社から不利益な扱いを受けるおそれがある」(20・1%)、「労組が従業員個別の問題を取り扱うことに関心がない」(19・7%)-などが目立っている。
従業員の多くが労働組合に失望していることを浮き彫りにしたこの調査結果に、甲南大名誉教授(労使関係論)の熊沢誠(74)は別の側面からも光を当てる。過労死問題に取り組む労組が少ないことへの、不満が透けてみえるというのだ。
熊沢は解説する。「労組は昇給と雇用の保障さえあればいいと考え、残業時間や仕事量などをめぐる働き方の問題について、意見を言わなくなってしまった」(敬称略)