信奉者が急増し共産党を脅かす存在に
法輪功というのはすでに知られているように、中国で広まり、海外の中国系住民たちの間にも多数の信奉者のいる気功集団である。中国共産党政権は法輪功を「邪教」と断じて大規模な弾圧を続けてきた。
私は、法輪功が中国で初めて大規模な抗議運動を起こす場面を目撃している。
1999年4月25日、中南海(中国共産党最高幹部たちが居住と執務に使う北京中心部の地区)を大きく取り囲むように、約1万人もの男女が突然、座りこみをした。中国政府が密かに進めていた法輪功への抑圧に抗議する集会だった。
あくまで平和的な集会だったが、独裁政権が一般国民の集会を厳しく規制する中国では、民間主催の集会でこれほどの人数が集まるのは稀有だった。当時、産経新聞の中国総局長として北京に駐在していた私は、この動きを至近に見て詳しく報道した。
気功は中国古来の自己鍛錬法である。人間の体内にあるとされる「気」のエネルギーを鍛錬して強め、自己の体力増強や他者の病気治療に使うのだという。この気功自体は中国当局も認めてきた。ところが1990年代はじめから李洪志氏という人物によって始められた法輪功は、伝統的な気功に仏教や儒教などの宗教色を加え、世界終末論も盛り込んで「法輪功の教義を実践すれば終末を生き延びられる」と教えていた。これが中国の幅広い層にアピールして、共産党内部も含めてものすごい勢いで信奉者が増えたのだった。
法輪功は、この抗議集会のときまでに、中国全土で7000万人もの信奉者がいたとされる。その勢いを見た共産党政権は自分たちの独裁統治を脅かす存在と警戒し、あの手この手で規制を試みてきた。法輪功側はその規制に反発して、中南海を包囲する抜き打ちデモを断行したのである。
このデモは一気に共産党当局を刺激して、政府は大規模な弾圧を開始した。99年7月に法輪功は正式に「邪教」と断じられ、社会や国家の安定と秩序を乱す危険な団体とされたそれ以来、中国政府は法輪功信者たちを何百万という単位で拘束し、改宗を迫り、応じない相手は厳罰に処してきた。
これに対して法輪功の側は、海外の多数の信者たちを含めて根強い抗議運動を展開してきた。中国の国家首脳が外国を訪問するとき、法輪功信者たちは必ずデモを実行した。特に米国やカナダには信奉者が多く、対中抗議が現在も活発である。法輪功は独自の有線テレビ局や新聞、雑誌も保有している。
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実は、リンさんはミス・カナダに選ばれる前に、法輪功信者への弾圧を描いたカナダ映画に出演し、当局から苛酷な扱いを受ける中国人女性の役を演じて話題となっていた。彼女は法輪功の会員ではないが、その教えに従って気功をしたことがあり、信仰や宗教の自由を残酷に弾圧する中国当局には強い反発を覚えるという。
「1999年以来、数百万人の法輪功関係者が中国当局により不当に拘束されてきたことを、複数の国際人権団体が報告しています。2014年だけでも6415人の法輪功信者が逮捕されました。また、法輪功信者が少なくとも3800人、臓器収奪のために中国当局により殺されたという証拠があります。臓器を移植用に売ることは中国では大きな利益になるビジネスなのです」
リンさんのこうした驚くべき証言は、「中国に関する議会・政府委員会」の調査によって指摘された内容に合致していた。同委員会の2014年の年次報告は、法輪功弾圧の実態を、臓器収奪のための多数の処刑も含めて詳述していた。中国当局は2013年からの3年間を「邪教の法輪功を決定的に壊滅させる期間」として弾圧を強めているという。最近では、法輪功関係者を中国国内で弁護しようとする弁護士たちまでが迫害されるようになったという情報もある
彼女が今回の証言で特に強調したのは、中国当局が、海外で人権擁護運動を進める中国系の人たちに対し、中国に居住する家族に圧力をかけて沈黙させようとする威嚇工作だった。
「私がミス・カナダに選ばれた数日後、中国に住む父から突然、連絡がありました。私に人権問題で発言しないようにと言うのです。父が中国の官憲から圧力をかけられていることは明白でした。カナダに住む私の知る多数の中国人たちも、中国政府を批判する言動をとると、その人の中国在住の家族や親族に迫害の手が及びます。中国当局はそんな威嚇によって私たちを沈黙させようとするのです」
次のページ リンさんの両親は離婚し、父親は中国に残った。彼女が…リンさんの両親は離婚し、父親は中国に残った。彼女がミス・カナダに選ばれたとたんに、人権問題で中国を批判しないようにという言葉が父から伝えられた。だが、リンさんは父の要求には応じず、当面はもう父と連絡はとらないことに決めたという。中国に行きミス・ワールド最終大会に出場すると宣言
リンさんは証言の最後に、沈黙はしてはならないという点を繰り返し強調した。
「カナダでは各地の中国領事館が中国系住民を監視して、中国政府批判があれば、中国に住んでいる愛する家族や親類を脅して、その批判を封じようとします。この脅しには誰もが屈してしまうでしょう。
でも私たちは、中国でいま弾圧される人たちのために沈黙してはならないと思います。恐怖を乗り越え、勇気を発揮して、人権弾圧への反対の声を叫び続けなければならない。そうしなければ、弾圧は限りなく広がります。カナダ政府にもアメリカ政府にも、中国の人権弾圧に反対を表明することを求めます。
私たち在外の中国系住民が、故国の同胞の良心や信念を守るために発言することは絶対に必要なのです」
リンさんがカナダ代表として出場するミス・ワールドの最終大会は今年12月に中国の海南省の三亜市で開かれる。中国政府が果たしてリンさんの入国を認めるのか、彼女に対し中国国内でどのような措置を取るのか。リンさんは予定を変えずに、必ずその最終大会には出場すると宣言している。
これほどまでに普遍的な道義や倫理を蹂躙する中国の人権弾圧を直視すると、終戦70年や慰安婦問題などで日本に道義や倫理を求めてくる中国の姿は、倒錯の極みにすら見えてくる。