もちろん国際法に違反して他国の主権を侵害したことに疑問の余地はない。世界のほとんどの国はイスラエルを非難した。しかし、イスラエルは生存を犠牲にしてまで国際法を守ろうとはしない。
六法を片手に合憲か違憲かを口角泡を飛ばして国会で議論する日本を笑っている国は、ユーラシア大陸の国々だけではないと思う。
>日本人のサヨクだけでなく世界情勢がわからない連中の多さにはほとほと嫌気がさす。
憲法は国の生存に優先するのか 国際情勢に無頓着な論争はやめよ - 田久保忠衛(杏林大学名誉教授、日本会議会長)
国際情勢を50年ほど観てきて、つくづく島国と、戦略眼を持った国々との言動の差が、とてつもなく開いていると思う。とりわけ、東シナ海に緊張感が高まっているにもかかわらず、国会審議は集団的自衛権の限定的容認は憲法違反かどうかに明け暮れている。
イスラエルは、サダム・フセイン大統領全盛時代の1981年6月7日にイラクの原子炉を、2007年9月6日にはバッシャール・アサドが君臨するシリアの核施設をいずれも急襲し、完全に破壊してしまった。
イラクもシリアもイスラエルの存在を認めていない。その両国が核を持つことは自国の生存にかかわるから先制攻撃をしたのだと、イスラエルの指導者は公言した。いわゆる「先制的自衛」である。
もちろん国際法に違反して他国の主権を侵害したことに疑問の余地はない。世界のほとんどの国はイスラエルを非難した。しかし、イスラエルは生存を犠牲にしてまで国際法を守ろうとはしない。
日本がイスラエルだったら、おそらく生存を犠牲にしても国際法を遵守するであろう。とくに、最近の安全保障関連法案の国会審議を観察していると、国の安全などおかまいなしに、憲法を優先の議論がまかり通っている。例を見ない倒錯した議論に国民の多数がのめり込んでいる。
憲法論議は大いに結構だが、国際社会に全く無頓着な論争を繰り返しているうちに、国家がつぶれる例はいくつもある。マンモスがいまとは反対に地球が冷却化しているのを知らずに死滅したように、ソ連は24年前に崩壊した。
共産主義の矛盾が極限に達したのと、滅茶苦茶な軍拡にブレーキがかからず経済が支えきれなくなったのが原因だ。ゴルバチョフ大統領もエリツィン大統領もそうなることは知っていたが、勢いがつくと人知ではどうにもしょうがなくなる。
野党議員にいくら説明しても納得してもらえないだろうが、国際情勢の中で戦後初めてと言っていい地殻変動が生まれている。
一つは、中国の領土的膨張がとどまるところを知らない事実である。もちろん世界第2のGDP(国内総生産)と最大の人口を有する中国との経済関係は、いかなる国も無視できないのだが、安全保障面では、はっきりした脅威になりつつあるこの国とどう向き合うかを日本は曖昧にしてきた。
第二は、米国とりわけオバマ政権第2期から米国には、安全保障面で他国の紛争になるべくかかわりを持ちたくないとの「内向き」の傾向が濃厚になってきた。問題は米中両国の間にある日本はどうするのか。劇的な国際情勢の変化にどう対応するかを考えると、異常なほどの緊張感を抱かないわけにはいかなくなる。
戦後の日本は日米安全保障条約が国家の安全を維持する基盤であった。米国によって軍事的に支えられ、ユーラシア大陸から受ける軍事的圧力に対抗してきたのである。ロシア、北朝鮮、中国の脅威である。
その脅威の中で、とくに中国は異常なほど軍事面、経済面で勢力を増大させてきた。南シナ海で人工島の建設、東シナ海でプラットホームの仮借のない構築を続け、そこを軍事的に利用しようとしている。その近くを日本が使用しているシーレーンが通っている。
中国政府は繰り返し、航行自由の原則は犯さないと言明しているが、近くに軍事的プレゼンスがあるだけで、日本側は中国に気を使わなければならない状況に追い込まれることに気付かなければならない。
頼みの綱は米国だが、オバマ大統領は、「米国は世界の警察官にはならない」と宣言し、中東、ウクライナ、アジア太平洋地域でのトラブルに「話し合い」を強調してきた。「イスラム国」との戦いにも地上戦闘部隊の投入は回避し、米軍事顧問はイラク軍の訓練、作戦の指導にあたるだけで、攻撃は無人機に頼っている。
2年前に訪日したときにも、尖閣諸島について、「日米安保条約第五条は日本の施政権の及ぶところに適用する」と述べはしたが、領土問題解決はあくまでも当事者間で平和的に行うべきだとの原則論から一歩も前進していない。
集団的自衛権の行使は憲法違反だと連日国会で大騒ぎしていられる国際情勢か。日本に迫りくる危機は中国、北朝鮮であって、安倍首相ではないだろう。日米関係の強化は日本の生存のため必要不可欠で、日本が米国の「内向き」で空いた部分の役割を演じなければならないのは当然ではないのか。
集団的自衛権の行使を違憲だという憲法学者たちは、その論理の続きに、「だから憲法改正が必要」と主張すれば整合性はあるが、ほとんどの人々は護憲派だというのだから、話のつじつまが合わない。
九条を改め、「国の独立と安全を守り、国民を保護するとともに、国際平和に寄与するため」国軍をつくらなければ日本は危ない。
外部からの武力攻撃だけでなく、内乱、大規模テロ、すでに予想されている直下型大地震などの自然災害、これまで夢にも考えられなかった重大なサイバー攻撃などを想定して、内閣総理大臣には緊急事態を宣言して対応できる権限を与える緊急事態条項を憲法に盛らなければ日本の安全は確保できない。
六法を片手に合憲か違憲かを口角泡を飛ばして国会で議論する日本を笑っている国は、ユーラシア大陸の国々だけではないと思う。(2015年8月17日号 週刊「世界と日本」第2059号より)
《たくぼ・ただえ》1933年、千葉県生まれ。
1956年早稲田大学法学部卒業、時事通信社入社、那覇支局長、ワシントン支局長、編集総務兼外信部長、編集局次長などを歴任。1978年から杏林大学教授、現在同大名誉教授。法学博士。日本会議会長。1996年正論大賞受賞。著書は『戦略家ニクソン』『激流世界を生きて』『憲法改正、最後のチャンスを逃すな!』ほか多数。
イスラエルは、サダム・フセイン大統領全盛時代の1981年6月7日にイラクの原子炉を、2007年9月6日にはバッシャール・アサドが君臨するシリアの核施設をいずれも急襲し、完全に破壊してしまった。
イラクもシリアもイスラエルの存在を認めていない。その両国が核を持つことは自国の生存にかかわるから先制攻撃をしたのだと、イスラエルの指導者は公言した。いわゆる「先制的自衛」である。
もちろん国際法に違反して他国の主権を侵害したことに疑問の余地はない。世界のほとんどの国はイスラエルを非難した。しかし、イスラエルは生存を犠牲にしてまで国際法を守ろうとはしない。
日本がイスラエルだったら、おそらく生存を犠牲にしても国際法を遵守するであろう。とくに、最近の安全保障関連法案の国会審議を観察していると、国の安全などおかまいなしに、憲法を優先の議論がまかり通っている。例を見ない倒錯した議論に国民の多数がのめり込んでいる。
憲法論議は大いに結構だが、国際社会に全く無頓着な論争を繰り返しているうちに、国家がつぶれる例はいくつもある。マンモスがいまとは反対に地球が冷却化しているのを知らずに死滅したように、ソ連は24年前に崩壊した。
共産主義の矛盾が極限に達したのと、滅茶苦茶な軍拡にブレーキがかからず経済が支えきれなくなったのが原因だ。ゴルバチョフ大統領もエリツィン大統領もそうなることは知っていたが、勢いがつくと人知ではどうにもしょうがなくなる。
野党議員にいくら説明しても納得してもらえないだろうが、国際情勢の中で戦後初めてと言っていい地殻変動が生まれている。
一つは、中国の領土的膨張がとどまるところを知らない事実である。もちろん世界第2のGDP(国内総生産)と最大の人口を有する中国との経済関係は、いかなる国も無視できないのだが、安全保障面では、はっきりした脅威になりつつあるこの国とどう向き合うかを日本は曖昧にしてきた。
第二は、米国とりわけオバマ政権第2期から米国には、安全保障面で他国の紛争になるべくかかわりを持ちたくないとの「内向き」の傾向が濃厚になってきた。問題は米中両国の間にある日本はどうするのか。劇的な国際情勢の変化にどう対応するかを考えると、異常なほどの緊張感を抱かないわけにはいかなくなる。
戦後の日本は日米安全保障条約が国家の安全を維持する基盤であった。米国によって軍事的に支えられ、ユーラシア大陸から受ける軍事的圧力に対抗してきたのである。ロシア、北朝鮮、中国の脅威である。
その脅威の中で、とくに中国は異常なほど軍事面、経済面で勢力を増大させてきた。南シナ海で人工島の建設、東シナ海でプラットホームの仮借のない構築を続け、そこを軍事的に利用しようとしている。その近くを日本が使用しているシーレーンが通っている。
中国政府は繰り返し、航行自由の原則は犯さないと言明しているが、近くに軍事的プレゼンスがあるだけで、日本側は中国に気を使わなければならない状況に追い込まれることに気付かなければならない。
頼みの綱は米国だが、オバマ大統領は、「米国は世界の警察官にはならない」と宣言し、中東、ウクライナ、アジア太平洋地域でのトラブルに「話し合い」を強調してきた。「イスラム国」との戦いにも地上戦闘部隊の投入は回避し、米軍事顧問はイラク軍の訓練、作戦の指導にあたるだけで、攻撃は無人機に頼っている。
2年前に訪日したときにも、尖閣諸島について、「日米安保条約第五条は日本の施政権の及ぶところに適用する」と述べはしたが、領土問題解決はあくまでも当事者間で平和的に行うべきだとの原則論から一歩も前進していない。
集団的自衛権の行使は憲法違反だと連日国会で大騒ぎしていられる国際情勢か。日本に迫りくる危機は中国、北朝鮮であって、安倍首相ではないだろう。日米関係の強化は日本の生存のため必要不可欠で、日本が米国の「内向き」で空いた部分の役割を演じなければならないのは当然ではないのか。
集団的自衛権の行使を違憲だという憲法学者たちは、その論理の続きに、「だから憲法改正が必要」と主張すれば整合性はあるが、ほとんどの人々は護憲派だというのだから、話のつじつまが合わない。
九条を改め、「国の独立と安全を守り、国民を保護するとともに、国際平和に寄与するため」国軍をつくらなければ日本は危ない。
外部からの武力攻撃だけでなく、内乱、大規模テロ、すでに予想されている直下型大地震などの自然災害、これまで夢にも考えられなかった重大なサイバー攻撃などを想定して、内閣総理大臣には緊急事態を宣言して対応できる権限を与える緊急事態条項を憲法に盛らなければ日本の安全は確保できない。
六法を片手に合憲か違憲かを口角泡を飛ばして国会で議論する日本を笑っている国は、ユーラシア大陸の国々だけではないと思う。(2015年8月17日号 週刊「世界と日本」第2059号より)
《たくぼ・ただえ》1933年、千葉県生まれ。
1956年早稲田大学法学部卒業、時事通信社入社、那覇支局長、ワシントン支局長、編集総務兼外信部長、編集局次長などを歴任。1978年から杏林大学教授、現在同大名誉教授。法学博士。日本会議会長。1996年正論大賞受賞。著書は『戦略家ニクソン』『激流世界を生きて』『憲法改正、最後のチャンスを逃すな!』ほか多数。