耳にタコができるほど言われてきた中国経済崩壊からの世界大不況、今度ばかりは本当になりそう?。
中国株暴落が引き起こす「21世紀の世界恐慌」
世界的リセッションで原油価格30ドル割れも?
「中国株は今後14%下落へ、1929年株価大暴落に似た動き」。2015年7月28日付ブルームバーグは、1カ月足らずで時価総額4兆ドルが吹き飛んだ中国株式市場の上海総合指数の動きが「1929年に最大48%下落した米ダウ工業株30種平均と類似の値動きだ」とする市場関係者の分析を紹介した。
上海総合指数は今年6月以降売られており、中国政府がまなじりを決して株価対策を講じているものの、7月27日に一時2007年以来で最大の下げを記録するなど一進一退の攻防が続いている。
中国各地に出現したゴーストタウン
7月28日付ブルームバーグは、「オンライン融資業者などからの借り入れによる中国株投資額は7000億元減少、今年のピークから61%落ち込んでいる」ことを報じている。バンク・オブ・アメリカ(BOA)は、中国株投資へのレバレッジ(信用取引などを用いることで手持ちの資金よりも多い金額を動かすこと)が非常に大きいため、「株価下落に伴う信用ポジション(7.5兆元以上とされる)の解消が中国市場の悲劇を助長する」と予測する。
また、株式急落を受けて中国企業の多くが資金を自社株買いに投じているため、社債の償還原資が減少するとの不安も広がっている(7月29日付ブルームバーグ)。
このような株式市場をはじめとする金融市場の動揺は、中国経済が1980年代以来の高成長の果てに大きな壁にぶつかっていることを示しているのではないだろうか。製造業の過剰生産能力、中流層にのしかかる不動産や株式投資にかかる損失、家計債務の膨張などの問題があることを知りつつ、当局が資産バブルを傍観してきた代償は大きい。
中国発の資源安が米国に波及
中国経済が無理に無理を重ねた高成長のツケを支払う時期がついに到来しているようだ。世界経済もこれに巻き込まれる可能性が高い。
7月29日、米フォード・モーターは「(世界最大の)中国の今年の自動車販売台数は少なくとも1998年以来初めて前年割れする可能性がある」との見解を示した(独フォルクスワーゲンも同様の見方をしている)。足元の株安で中国経済が冷え込み、世界経済の成長を大幅に押し下げることが懸念され始めている。
7月29日付日本経済新聞が「中国不安、米市場に波及」と報じているように、中国発の資源安は米国のエネルギー分野での人員削減を加速し、エネルギー分野の株安を通じて米国株式市場全体の波乱要素となる可能性がある。
石油大手シェブロンが全従業員の2%に相当する1500人をレイオフする方針を7月28日に明らかにするなど、原油価格のさらなる下落で石油業界の人員削減が加速する兆しが出始めている。
S&P500種株価指数の業種別騰落率を年初来で見ると「エネルギー」がマイナス13%で最も大きな下落幅を記録した。中でもエクソンモービルやシェブロンの下げが目立っている。
原油やその他コモデイテイの価格が軟調なため、ブルームバーグのコモディテイインデックスは2008年のリーマン・ショック後の最安値を更新し、過去13年間で最も低くなっている。特にリーマン・ショック後も価格が下がらなかった金価格の下落が際立っている。一儲けを企んだ中国のファンドが金売りを仕掛けたとの噂もあるが、ゴールドマン・サックスが「過去1年間の中国からの資金流出額は7610億ドルに達した」と推計しているように、資金繰りに窮した中国勢の投げ売りだった可能性が高い。
世界経済はリセッションに?
目を世界経済全体に転じると、リーマン・ショックを引き起こす遠因となったグローバルインバランス(世界的な経常収支不均衡)の改善も遅々として進んでいない。
IMFは7月28日に公表した年次報告で、「中国やドイツといった経常収支黒字の多い国は内需を拡大し、世界の成長を抑制している不均衡の是正に貢献する必要がある」と指摘した。“中国やドイツの経常収支黒字”と“米国の経常収支赤字”という世界的な不均衡は、リーマン・ショック以前に比べて縮小しているものの、ここ数年ほとんど進展していない。業を煮やしたIMFは「需要拡大がなければ世界経済の低成長は長期化する」と警告を発しているのだ。
折しも7月24日に発表された7月の中国製造業購買担当者景気指数(PMI)速報値が、市場の予想に反して低下し、1年3カ月ぶりの低水準となった。そのため、「中国をきっかけに金融市場の悪化が進めば、FRBの9月利上げは先送りするのではないか」との観測が急速に広がりつつある。「中国が近く世界をリセッション(景気後退)に陥れる恐れがある」(モルガンスタンレー)と危機感を露わにする関係者も少なくない。
リセッションに陥らなくても、このところの商品価格下落で「世界中の投資家と中央銀行は昨年襲われたデフレに対する恐怖感に再び苛まれつつある(7月28日付ロイター)」。中国をはじめとする新興国経済が急速に減速している中で、米国や英国、欧州大陸で景気回復が進んでいても十分な物価上昇圧力を生んでおらず、消費者物価の上昇率はすでに世界的にほぼゼロで推移しているからだ。デフレの長期化は、債務の実質価値が増大して返済がより困難になるため、債務の水準が高い家計や企業、政府にとっては深刻な打撃となる。
資金繰りに苦しむエネルギー関連企業
「過重な債務」と言えば米国のシェール企業である。個々の企業が頑張れば頑張るほど業界全体が沈んでしまうという「蟻地獄」の構図がますます鮮明になっている。
7月28日のニューヨーク原油市場でWTI先物価格は一時は3月24日以来の安値となる1バレル=46ドル台まで下げ、今年1月に記録した同42ドル台を下回る可能性が出てきた。モルガンスタンレーは「金価格は1トロイオンス=800ドルまで下落する」との見通しを示しているが、その時点での原油価格は1バレル=30ドル割れを起こしているのではないだろうか。
「ニュースはたくさんあるが、エネルギーセクターにとって良いニュースは1つもない」「雪崩に向かって進むのはその人の責任だ。今はリスクを避けようとする取引が活発だ」というコメントが示すとおり、市場関係者のセンチメントは芳しくない。投資家による原油相場上昇を見込む買い越しは、過去3年で最大の減少を示した(7月27日付ブルームバーグ)。
WTI先物価格が6月以降20%以上下げたため、ブルームバーグ・インテリジェンスの北米独立系探査・生産指数の構成銘柄の時価総額のうち「約1000億ドルが吹き飛んだ」。中でも米小型エネルギー株は最悪の状況である。エネルギー関連企業の発行が多いジャンク債に投資する代表的な上場投資信託(ETF)である「SPDR バークレイズ・ハイ・イールド債券 ETF」は、2014年12月以来の安値水準をつけた。エネルギー関連企業はリーマン・ショック直後よりも資金繰りが厳しい状況になっている可能性が高い。