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「人が消える」恐怖、立ち上がる香港 - 城山英巳

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悪魔チャイナの本性は反抗する人間を動物としか見ない(それは言いすぎだという人は本当のチャイナ共産党を知らなさすぎる)、そのチャイナが数十年後には日本を支配下に置くと時々本音を漏らしている。
こんな国とまともに話し合いなどできない。




記事

「人が消える」恐怖、立ち上がる香港 - 城山英巳

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娘は今でも家のドアがノックされる音を聞くとこう言うのです。『ママ、警察が来たの?』」
 2015年7月10日、著名人権派弁護士・李和平の事務所に警察がやってきた。その時、李の5歳になる娘も一緒だった。李は娘を妻の王峭嶺に預けるとそのまま警察に連行され、消息不明になった。ようやく警察から通知があったのは翌16年1月。「国家政権転覆」容疑で逮捕したという知らせだった。
 王は私のインタビューに対し、父親が連行される姿を見た娘が受けた心理的ショックはなかなか消えないと打ち明けた。
 拙著『中国 消し去られた記録~北京特派員が見た大国の闇』(白水社)には、「人が突然、しかも次々消えてゆく…」の中国の現実を記した。
 中国だけでない。「一国二制度」の下で司法の独立や言論の自由が保障された香港でも、「人が消える」事件が香港社会を震撼させている。共産党指導者の内幕や一党独裁体制に批判的な本を取り扱った香港の「銅鑼湾書店」の関係者5人が相次ぎ、タイや広東省、そして香港からこつ然と姿を消したとして大騒ぎになったのは昨年末から今年初めだ。
 6月16日、拘束から8カ月ぶりに香港に戻った林栄基店長が記者会見を開いたが、そこで浮かび上がるのは「警察国家」の横暴な発想や手口だけではない。銅鑼湾書店事件は、中国・香港関係の転換点であり、香港の「瓦解」は共産党体制の危機を決定的にする要因になりかねない。

真相暴露は「一国二制度のため」

 銅鑼湾事件をまず振り返ろう。書店親会社「マイティ・カレント・メディア」のオーナー・桂敏海や書店店長・林栄基ら4人が昨年10月、タイや広東省から失踪したのに続き、5人目の李波は12月末、香港で姿を消した。李は英国籍を持つ。それにもかかわらず中国当局が直接香港に来て、連行したのが事実であれば、習近平体制になってますます有名無実となった「一国二制度」が実際には崩壊している証拠と言えた。
こうした中、国営新華社通信や中央テレビに桂敏海が登場したのは1月18日だった。そこで、桂は「2003年に浙江省寧波で飲酒運転の結果、女子大生を死なせた事故の罪を償うため帰国し、警察に出頭した」という、不自然な自白を行う。「強制的な拘束」という批判を避けるため公安当局がストーリーをつくり出したとの見方が強い。李波らは「自分の意思で本土に渡り、捜査に協力している」と一貫して述べているが、中国当局が連行を正当化するため語らせているものとみられた。
 林栄基は6月14日、8カ月ぶりに香港に戻ることを許された。この際、「(銅羅湾書店から)書籍を購入した中国本土の顧客データが入ったコンピューターのハードディスクを李波から受け取り、16日にハードディスクを持って(中国に)戻ってくる」よう中国当局から要求された。
 しかしその要求を無視して、中国本土に戻らなければならない16日に記者会見に臨んだ。香港に戻って2日間で、銅鑼湾書店関係者の失踪事件に抗議するデモが香港で起こったことを知り、「この事件は自分個人や書店の問題ではなく、香港人全体そして『一国二制度』に関わることだ」と、真相の公表を決意したのだという。

「中央特捜チーム」の政治案件

 林栄基は1994年、銅鑼湾書店の創設者だった。書店が「マイティ・カレント・メディア」に買収されて以降も店長を務めた。
 香港メディアの報道によると、林は昨年10月24日、広東省東莞に恋人に会いにいくため、香港から深圳・羅湖の税関を通過しようとした際、警官に連行された。その後、11人が7人乗りの車に彼を押し込み、身分証などを没収した。何を聞いても、答えは返ってこなかった。
 翌日早朝7時すぎ、目隠しされ、鳥打ち帽をかぶせられて列車で13~14時間走り、到着したのは寧波だった。下車後、45分程度車で走り、大きな建物の2階の一室に収容された。まず衣服を全部脱がされて検査を受けた。そしてこう告げられ、署名を迫られた。
 「家族とは連絡を取ってはいけない」「弁護士も雇ってはいけない」
 2人1組の看守が24時間態勢で監視した。歯ブラシにはひもがついており、歯を磨く際には看守がひもを持ち、磨き終えれば返さなければならなかった。自殺防止のための措置だった。
 林栄基は、自分を捜査したのは「中央専案組(中央特別捜査チーム)」だと明かした。「寧波市公安局」という地方当局でなく、共産党中央の直轄下で捜査される政治案件と言えた。取り調べ官が特に尋問したのは、習近平国家主席に関する本や、習指導部が2013年に言論統制徹底のため語ってはいけないと定めた7つの禁句「七不講」(憲政・民主主義、公民社会など)についての書籍だった。

懺悔映像「監督、せりふあった」

 林栄基は1月28日には香港・鳳凰衛視(フェニックステレビ)に出演させられた。そこで中国共産党批判など中国本土で取り扱いが禁止される「禁書」を中国で販売した「違法経営」容疑に関して「誤りを深く認識している」と罪を認めさせられた。
 中国では近年、人権・言論弾圧など国際社会が関心を高める問題で、当局が体制に批判的な人物を逮捕した際、国営・政府系テレビにその人物を登場させ、「懺悔自白」の映像を放映するケースが急増している。国家権力が自分たちの描いたストーリーを宣伝するだけでなく、国家権力に逆らった人物の「汚名」を狙ったものだ。本来罪を認めるかどうか表明するはずの裁判所でなく、国営メディアで「罪」を下されることへの批判は大きく、「人民テレビ法院(裁判所)じゃないか」という揶揄の声が集中している。
 林栄基は記者会見で「当時は罪を認めるよう迫られ、認める以外に方法はなかった」と明かし、「(罪を認めたテレビ放送には)監督もおり、せりふもあった」と、強制的なやらせであることを暴露した。さらに林栄基は香港に戻って、李波とも会い、李が林に「自分の意思に反して連行された」と認めたとも明かした。
 香港メディアのインタビューに「(拘束中の)今年1、2月、自殺しようと思った」と漏らした林栄基は「今もその考えはあるか」と記者から聞かれ、こう答えた。「香港で将来的に(中国当局によって)『自殺したように装われる』ことがあるかどうかは分からない。しかし自分では自殺しない」

香港行政長官の不快感

 林栄基の内幕暴露は「脅威をものともしない」(香港ニュースサイト・端伝媒)と評され、香港、中国大陸、台湾、国際社会に大きな反響を呼んだ。
 李波は即座に「私は銅鑼湾書店のコンピューターを使用したことはなく、いかなる顧客名簿を公安当局に渡すことも不可能だ」とコメントし、「自分の意思に反して連れて行かれたという類いの話を彼(林栄基)と話したことはない」と強く否定した。中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報も、「(林栄基証言の)実質的内容は多くない」と疑問を投げた。
 こうした中、中国共産党の言いなりと批判されている香港の梁振英行政長官が21日、林栄基が中国当局による連行の実態を暴露したことを受け、中国政府に懸念を表明したのは注目に値する。梁はさらに香港市民が中国本土で拘束された際の香港と中国政府の連絡メカニズムを通じて香港市民の合法的権益を保障するよう要請。「我々は事実を知らない。知っていることはすべてがメディア報道によるものだ」と不快感を示した。

共産党と戦う「二つの対立軸」

 梁振英の発言は、中国共産党・政府に対する香港社会の空気を表している。2014年9月末から香港の民主化を求めた学生たちのデモ「雨傘革命」で強硬な姿勢を崩さなかった梁振英といえども、今の香港社会の空気では共産党をかばう発言は困難と言えるのだ。
 雨傘革命で学生たちは、香港行政長官の選挙制度改革をめぐり北京が突き付けた強硬な態度を突き崩すことはできず、強い挫折感を味わった。学生たちを痛烈に批判した急進派勢力は「学生たちが一貫させた非暴力かつ平和的なデモでは共産党体制を動かすことはできない」と主張、「暴力で戦うしかない」と過激な考えが台頭している。
 香港で強大な中国共産党と向き合う際、「非暴力で改革を促す」か「暴力で革命を目指すか」というのが一つの対立軸である。「暴力的に革命を目指す」というのは香港独立につながる発想だ。そしてもう一つの対立軸は「中国大陸の民主化を要求する」のか、「香港の民主・自由を自らの手で守り抜く」のか、という問題である。
 昨年10月以降の銅鑼湾書店事件で、崩壊しつつある「一国二制度」の黄昏は明確になった。冒頭の李和平弁護士らのように中国大陸では昨年7月9日以降、次々と人権派弁護士・活動家が秘密裏に連行され、一時的な尋問を含めればその数は319人に達した。
 雨傘革命は失敗に終わったと言えども、この香港の若者たちの抗議運動の盛り上がりが、習近平体制に入って中国での言論弾圧が強化する中で発生したことで、香港の若者たちの間で「今日の中国は明日の香港」「共産党にのみ込まれる」という懸念を高める結果となった。そして香港社会の一部がより過激な考え方を受け入れる土壌をつくった。こうした中で銅鑼湾書店事件という、「懸念」が「現実」となる問題を突き付けられ、「中国の民主化を考えるより、身近な民主化を考える必要がある」という思考が広まるわけだが、より急進的に、「中国とは縁を切る」つまり「香港独立」という一派が勢力を拡大させているのだ。

中国の民主化要求への反発

 6月4日夜、香港島ビクトリア公園。1989年の天安門事件での犠牲者を追悼する毎年恒例のキャンドル集会が開かれた。今年で27回目。主催者の香港市民支援愛国民主運動連合会(支連会)によると、今年の参加者は12万5000人で、2009年以来で最低の参加者になった。
 「事件」が起こったのは開始時間の夜8時前。約10人が壇上に乱入し、「香港独立」と叫び、主催者側に取り押さえられた。キャンドル集会では前代未聞の光景だった。香港独立派は、支連会がスローガンとしている「民主中国の建設」という理念に反発しているのだ。
これまで香港社会は大きく分けて「親中派」と「民主派」の世界だった。民主派は、一国二制度の下で香港の民主主義や自由は守られると信じてきており、主眼は中国の民主化要求だった。しかし香港独立を求める若者らからすれば、天安門事件は確実に風化しており、香港の民主主義が危機に瀕している。こうした中で、27年間やってきた同じやり方はもはや意味はなく、「こんなのん気なことでいいのか」という危機感も強いのだ。

分裂した「天安門事件」集会

 香港ニュースサイト「端伝媒」は、独自取材に基づき、「今年の6月4日は初めて、4つの違った集会に分裂した」と報道している。
 キャンドル集会に毎年参加していた香港中文大学など11大学・専門学校の学生会は今年の6月4日、「六四の意義を見直し、香港の前途を考えよう」をテーマに討論会を開催した。その中で「支連会による集会は形骸化している。『民主中国の建設(を目指す)』という綱領に不満があり、一致して支連会の集会に出席しないこと決定した」と表明し、「中国共産党政権は絶対に信頼できない」と強調した。
 学生会の集会では、香港民族党の主席・陳浩天が出席し、その発言が喝采を浴びた。「香港人が理性的かつ非暴力であろうが、暴力的であろうが、中国共産党は解放軍を出動させ鎮圧できる」。今年3月に設立された香港民族党は、中国共産党による植民状態から抜け出し、独立かつ自由な「香港共和国」を創設するというのが目的で、暴力抗争も辞さないという過激路線を売りにしている。

「香港独立派」「本土派」の台頭

 一方、香港大学の学生会は昨年の6月4日に続き、支連会の集会とは袂を分かった。「香港人の前途はどこに」をテーマに今年も独自の集会を開き、約1000人が出席した。香港民族党と同様に過激な独立派と知られる「本土民主前線」の梁天も参加した。「香港こそ本土」という「本土派」の代表格だ。香港大学哲学系の学生である25歳の梁は、16年1月の立法会の補選に出馬し、落選したが、「民主派」「親中派」に続き、第3位の票を獲得し、「本土派」の勢いを見せつけた。
 今年の春節に九竜地区の繁華街・旺角で起こった警察との衝突事件を起こしたのも本土民主前線だった。中国共産党体制と対抗し、香港独立のためには暴力手段も辞さない手法に対し、一部の若者の熱烈な支持を集めつつあるのも事実だ。
確実に言えることは、「一国二制度」を骨抜きにする習近平指導部の強硬な香港政策が、若者たちの間に「中国離れ」どころか、過激な香港独立派まで台頭させたという現実があるということだ。中国大陸でも言論の自由や市民の権利を求めて立ち上がった人々を力でねじ伏せ、社会から「消す」強硬な手法は、逆に横暴な権力を恐れない大量の勇気ある市民を台頭させ、習体制に重くのしかかっている。
 北京では5月上旬、重点エリート大学・中国人民大学の修士課程を修了した29歳の青年・雷洋が、空港に親戚を迎えに行った際、なぜか「買春」容疑で拘束され、派出所に送られる途中、心臓病で突然死する事件が中国社会を震撼させている。謎だらけの死に対して知識人たちは警察ではない独立した調査を要求しているが、司法手続きがなく警察権力によっていとも簡単に自由を奪われ、命まで消えてしまう現実は、「自分も第二の雷洋になりかねない」という市民の不信感と疑念を強めさせた。
 香港でも同様に、林栄基のように恐怖に恐れずに声を上げる人たちへの共感や支持が市民の間に広がっている。習近平は、強権政治により、自分で自分の首を絞めている。胡錦濤・温家宝時代は黙認された香港の「禁書」まで、耳障りになるほど、習近平は自身の統治能力への自信をなくし、それを潰すことで安定を保とうとしている。

英のEU離脱と中国問題

 習指導部は、英国の欧州連合(EU)離脱選択に何を見たか。「国民投票」があらゆる安定を破壊する西側民主主義の政治の愚かさを強調しているが、英社会の分断は、過激な「中国離脱派」が台頭する香港社会にも当てはまる現実として懸念を深めているだろう。その香港の現実は、当然のことながら香港だけの問題でない。香港の不安定化は、中国共産党体制の安定に直結する問題だ。
 習近平政治の本質は何か。毛沢東をまねた個人崇拝や、「中国の夢」や南シナ海・東シナ海への野心的な進出に代表される「強国路線」、国民の人気を得る側面もある反腐敗闘争…。習近平がポピュリズムやナショナリズムを前面に出した国家運営を進めざるを得ない背景には、深刻な格差や不公平システムがもたらした中国社会の分断が、共産党体制を直撃する不安を覆い隠せなくなっているという現実があるのだ。(敬称略)

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