新型リーフは初代の欠点をすべて克服したといっていい。その最たるものは航続距離で、初代の倍の400キロの走行が可能だ。急速充電スポットは全国で5千カ所に迫り、さらにはほとんどの大型ショッピングセンターに充電設備が置かれるようになった。そして、リーフはこの7年間で世界35万キロを走り、重大事故を起こしていないという実績も加わった。発売当初のような風評を聞くこともなくなった。
発端は、昨年10月、ドイツの超党派の議員連盟が、「30年以降、ガソリン車およびディーゼル車の登録を認めない」との決議をしたことだった。この動きはヨーロッパに広がり、今年に入ってフランス、次いでイギリスが、40年までに内燃機関車の発売を禁止すると発表。
発端は、昨年10月、ドイツの超党派の議員連盟が、「30年以降、ガソリン車およびディーゼル車の登録を認めない」との決議をしたことだった。この動きはヨーロッパに広がり、今年に入ってフランス、次いでイギリスが、40年までに内燃機関車の発売を禁止すると発表。
さらにはこの9月、中国がガソリン車、ディーゼル車の発売禁止の検討に入ったと発表。
>車の大変革時代到来は始まっている。電気自動車がガソリン車を駆逐するまであと10年
経済界 / 2017年9月25日 10時0分
ドイツでフランクフルトモーターショーが開幕した。今年の主役は電気自動車(EV)。各メーカーがこれから発売するEVを展示、今後の戦略を明らかにした。ベンツがガソリンエンジンを搭載した自動車を発明してから130年。覇権はガソリン車からEVに移りつつある。文=関 慎夫
欠点をなくした日産・新型リーフ
「今後ガソリン車は一切つくらないとA社が決断したようだ」
ある部品メーカーの社員の言葉である。この会社は、自動車にはなくてはならない部品を製造しており、A社にも納めている。そのA社向け部品の仕様が最近大きく変わったという。その理由をこの社員は知らされていないが、職場の仲間と出した結論が、冒頭のものだった。
日産自動車は9月6日、千葉市の幕張メッセで新型「リーフ」の発表会を開いた。2010年に発売された初代リーフは、事実上世界初の市販EVであり、7年間で30万台を販売した。しかしその評価は必ずしも芳しいものではなかった。
ひとつは航続距離の短さ。フル充電での走行可能距離は200キロ。つまり高速を2時間も走ると電池切れを起こしてしまう。しかも、発売当時の国内急速充電スポットはわずか100カ所。これでは怖くて遠出などできるはずもない。加えて、「世界初」に付きまとう風評とも戦わなければならなかった。例えば、「3年走ればバッテリー交換が必要」「寒冷地では電池消耗が激しく、立ち往生しかねない」といった噂である。
新型リーフは初代の欠点をすべて克服したといっていい。その最たるものは航続距離で、初代の倍の400キロの走行が可能だ。急速充電スポットは全国で5千カ所に迫り、さらにはほとんどの大型ショッピングセンターに充電設備が置かれるようになった。そして、リーフはこの7年間で世界35万キロを走り、重大事故を起こしていないという実績も加わった。発売当初のような風評を聞くこともなくなった。
それだけに日産の期待も大きい。今年4月に日産社長に就任したばかりの西川廣人社長は、「日産はEVの先駆者であることを自負している。新型リーフは日産がゼロ・エミッション(排出ガスゼロのクルマ)のリーダーシップをより強固なものにするクルマだ」と、リーフがEV市場をリードすると豪語した。
この言葉の裏には、米テスラの存在がある。ここ数年、EVの話題を独占してきたのは、日産リーフではなく、イーロン・マスク率いるテスラだった。中でも今年販売を開始した「モデル3」は、予約だけで50万台超と、過去7年のリーフの実績を一瞬で上回った。西川社長の言葉からは、自動車メーカーのプライドを懸けて、EVの盟主の座を死守するという意気込みが伝わってくる。日産では、リーフの販売目標を発表していないが、少なくとも初代の倍の販売を見込んでいる。
しかしリーフのライバルはテスラだけではない。
世界各国で相次ぐガソリン車販売禁止
9月12日ドイツでフランクフルトモーターショーが開幕した。東京モーターショー、北米国際モーターショー(デトロイトモーターショー)と並ぶ3大モーターショーの中で真っ先に行われることから、その年の自動車業界のトレンドを知るにはうってつけだ。そして今年のフランクフルトはEV一色となった。
中でも力の入っていたのが世界最大の自動車メーカーとなったフォルクスワーゲンで、2025年までに世界で50種、300万台のEVを発売する。同社はこれまで25年100万台の目標を掲げていたが、それを一気に3倍に引き上げた。同社は2年前、排ガスの偽装工作が判明し大きな批判を受けたが、それを機に、それまで進めてきたディーゼルシフトからEVシフトに全面的に切り替えた。既存の大手自動車メーカーの中では、EVに最も熱心に取り組んでいると言っても過言ではない。
日本勢ではホンダが「アーバンEVコンセプト」を出品した。ホンダは19年に全世界でのEV販売を予定しているが、この出品車がベースとなる予定だ。また今後ヨーロッパで販売されるすべてのクルマに、ハイブリッドを含む電動化技術を搭載することも明らかにした。
各社がEVに力を入れるのは、世界各国が従来の内燃機関車に対して厳しい態度で臨み始めたためだ。
発端は、昨年10月、ドイツの超党派の議員連盟が、「30年以降、ガソリン車およびディーゼル車の登録を認めない」との決議をしたことだった。この動きはヨーロッパに広がり、今年に入ってフランス、次いでイギリスが、40年までに内燃機関車の発売を禁止すると発表。
さらにはこの9月、中国がガソリン車、ディーゼル車の発売禁止の検討に入ったと発表。時期は今後詰めるとしているが、世界最大市場の決断は、自動車メーカーに衝撃を与えた。
しかも各国の規制において、ハイブリッド車は環境対応車として認められていない。ハイブリッド車で世界をリードをしてきた日本メーカーにとっては二重の意味でショックだった。40年というとあと20年もあると思うかもしれない。しかしこうしたシフトは動き始めたらどんどん加速する。電機業界では、ブラウン管から液晶へのシフトが起きた時、予想を上回るスピードでブラウン管を駆逐していった。自動車業界にこれを当てはめれば、買い替えが一巡する10年後には、EVが主流となる可能性が強い。
話をフランクフルトに戻すと、フォルクスワーゲンと並ぶ2大メーカーの一角、トヨタも出展しているが、EVの展示はなかった。トヨタはこれまで省エネ・環境車としてハイブリッド車を推進、さらにゼロエミッション車としては燃料電池車に力を注いできた。ある意味、EVをそれほど重視はしてこなかった。
ただし、世界的なEVへの流れはさすがにトヨタもあらがいきれない。そのためにトヨタの出した答えの一つが、8月4日のマツダとの提携会見だった。
この席で豊田章男・トヨタ社長は「前例のない海図なき戦いが始まっている」と自動車業界をめぐる状況に触れ、その戦いを乗り切るためにマツダと資本提携し、共同でEV開発に乗り出すことを明らかにした。
垂直統合が終わり水平分業の時代へ
カール・ベンツが世界初の自動車を完成させたのは1885年のことだった。この時の動力源は4サイクルのガソリンエンジンだった。以来130年の間、内燃機関の爆発エネルギーを回転運動に変え、車軸に伝えるという自動車の基本的な構造は変わってこなかった。しかしEVは、全く違う構造だ。単にエンジンがモーターに置き換わったのではなく、パラダイムシフトが起きている。
自動車1台の部品点数は約10万点といわれている。そのうちエンジン部品だけで2万点ほどになる。ところがEVのモーターの部品数は50に満たない。関連部品を入れてもせいぜい100点。ガソリン車とは比較にならない。当然、EVが普及すれば、自動車産業そのものも大きく変わらざるを得ない。
現在の自動車産業は、組み立てメーカーを頂点として、2次、3次、4次下請けで構成され、裾野は広い。これも部品点数が多いためだ。ところがEVが主流になれば部品点数は大幅に減り、同時に取引相手も激減する。カルロス・ゴーン氏が日産リバイバルプランで取引業者を半減させた結果、NKKと川崎製鉄が合併してJFEが誕生するなど、業界再編が起きたが、EVによる産業再編の規模はそれを大きく上回る。
そして電機メーカーで1990年代に垂直統合から水平分業への大転換が起きたように自動車業界にも同様のことが起きる可能性が高い。となると、現在の企業グループの在り方も変わってくる。
既に日産は今年3月、連結子会社だったカルソニックカンセイを投資ファンドに売り渡した。さらに8月にはリーフに搭載しているリチウムイオン電池の製造会社の株式を中国のファンドに売却した。これは垂直統合から水平分業への転換に対応したものだ。こうした動きが今後加速する。
ガソリン車からEVへのシフトは、自動車業界大転換の氷山の一角にすぎない。水面下では、はるかに大きな世界の産業地図を変える動きが始まっている。